キヤノン判決

◆H18. 1.31 知財高裁 平成17(ネ)10021 特許権 民事訴訟事件


平成17年(ネ)第10021号 特許権侵害差止請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成16年(ワ)第8557号)(平成17年11月4日口頭弁論終結
          判        決
(略)
        控訴人      キヤノン株式会社
(略)
        被控訴人      リサイクル・アシスト株式会社
(略)
          主        文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,別紙物件目録(1)及び(2)記載のインクタンクを輸入し,販売し,又は販売のために展示してはならない。
3 被控訴人は,前項記載のインクタンクを廃棄せよ。
4 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
          事実及び理由

 インクジェットプリンター用カートリッジを巡り、キヤノンが、自社製品のリサイクル品販売によって特許権を侵害されたとして、リサイクル品輸入会社に輸入・販売の差し止めなどを求めた訴訟の控訴審判決が31日、知的財産高裁の大合議であった。篠原勝美裁判長は、請求を棄却した一審判決を取り消し、輸入・販売差し止めと製品の廃棄を命じた。キヤノン側逆転勝訴とした。

今日、知財高裁で注目の判決があった。
その日のうちにネットに掲載するんだなあ。仕事速いなあ。夕方にはもう載っていたらしい。
 
しかし、こういうのって「要約」がほしいなあ。明細書だって「要約」が必須なんだから、判決文にもつけてほしい。


ときどき勘違いしたブログや記事を見るのだが、あくまで「特許権の消尽」という点がポイントになっているものであって、「プリンタを安く売ってインクで稼ぐなんてずるい」とか「そんなビジネスモデルは許されない」とか「消費者の利益に反する」とか「環境保護やリサイクルの観点でどうこう」っていうのは(訴えられた会社が主張しているから判決文にも出てくることは出てくるが)主要な点ではない。

あくまで今回の判決は、リサイクル品の製造過程で、特許の、発明の根幹をなす部分を侵害しているから「発明の再実施」とみなされた訳で、「洗浄、乾燥、再充填」がポイントになっている。だから、洗浄、乾燥しないでユーザーがカートリッジにインクを入れる、いわゆる詰め替えインクなんかは全く対象外なんだよな。リサイクルカートリッジの販売だって、乾燥する前に詰め替えしてしまえば問題ないように見える判決文だ(あくまで、今回問題になった特許について言えばだが)

そういう意味で、

(略)
篠原勝美裁判長は「リサイクル品は、特許製品を再製品化したもので、特許権を侵害する」と指摘した。

 1審判決は「リサイクルは修理の範囲に過ぎず特許権を侵害しない」と判断していた。リサイクル品が特許権を侵害するか否かは判例が確立しておらず、知財高裁は司法判断を統一する必要があるとして裁判官5人による大合議で審理した。リサイクル品を巡る同種訴訟に影響を与えそうだ。

(略)

 知財高裁は、キヤノン側が使用済み品を回収して燃料として再利用していることなども指摘して、リ社側主張を退けた。

という記事は、やけにリサイクルに偏っていてちょっとはずしているんではなかろうか。一般消費者向けではあるのかもしれないが。

 知財高裁は、再生品が新たな「生産」にあたれば特許権を侵害し、「修理」なら侵害しない――という地裁が示した枠組みを否定。特許製品が売られた場合など特許権がその目的を達成して使い尽くされている場合は、特許権を侵害する物に対しても、特許権者は販売差し止めなど特許権の行使ができないが、例外的に行使が認められる場合があるとした。

 そして特許権行使が認められる場合として2類型を挙げた。一つは(1)製品の寿命が尽きた場合。それを加工した物が出回れば、特許製品の新たな需要を奪い、特許権者を害するからだ。もう一つは(2)発明の中核に当たる部品を加工したり交換したりした場合。やはり特許製品の新たな需要が奪われることを重視した。

 リ社の再生品については、特許の本質部分であるインク漏れ防止などのための特殊な構造を復活させることが(2)にあたるとして特許権行使を認める結論を導いた。(1)には当たらないとした。

(略)

 カートリッジ市場全体に占めるリサイクル品のシェアは05年で約6%で、出荷数は急激に増えている。業界は急成長に冷水を浴びせられた形だが、篠原裁判長は判決理由で「リサイクル品の製造、販売が一切禁止されるべきだというのではない」と念を押した。

これは知財担当者からするといい記事っぽいぞ。「特許権の消尽」について説明してるし。

 判決理由で篠原裁判長は「特許製品について、発明の本質的部分を構成する部材が加工・交換された場合は、特許権者は差し止めなどを求めることができる」と指摘。「カートリッジ内部を洗浄したうえで再注入する工程は、インク漏れ防止などキヤノンが発明した製法の本質的部分の再実施に当たる」として、特許権の侵害を認定した。

 判決は「リサイクルの過程で行った加工が発明の主要部分に及んでいれば、特許権侵害が認められる」との判断基準を提示。その上で、問題のリサイクル品が、乾いて固まったスポンジを洗浄してインクを再注入していることから、キヤノンの発明の主要部分を加工したと判断した。

この辺は「消尽」という考え方までは説明していない。これを読んでも、なぜこういう判決になるのか全くわからないんじゃないだろうか。
しかし、なぜ経済じゃなく社会の方に記事があるんだ、読売……。なかなか見つからなかったじゃないか。

 キヤノンはリサイクル・アシストの行為が新たな生産であるとし、特許権侵害を主張。一審では特許権侵害を否定されたが、控訴審で認められた。キヤノンは「妥当な判決」とのコメントを出している。

 控訴審でも特許権の消尽が争点になった。控訴審判決では、対象となる製品のうち、特許の本質部分を構成する部材の全部か一部について加工・交換が行われた場合、販売後ももはや同一の製品とは言えなくなるため、特許権は消尽せず、特許権者は権利行使が可能だとした。

IT系だとこれぐらいしか見つからなかった。ITMediaは「消尽」について書いてるなあ。Impressはほとんど情報がないが。

「リサイクル・アシストの再生品がキヤノンの発明の構成要件を充足している点で争いはなく,形式的には特許権の侵害となる」(篠原氏)。しかし,発明による製品を譲渡した場合には,特許権はその目的を果たしたものとして「消尽」するという最高裁判所判例(いわゆる「BBS事件」)がある。今回の係争では,リサイクル・アシストが再生したインク・カートリッジにおいてキヤノン特許権が消尽するかが争点となっていた。

ここはさすがという感じの記事ですなあ。ポイントを押さえてしっかり書いてあるなあという印象。「消尽」がポイントである点、今回のがなぜ「消尽」にならないのかきちんと書いてある。該当する特許番号まできちんと書いてあるのは親切。ある意味、ここが一番「判決の要約」に近いかもしれない。



 
まあ、いずれにせよ、「リサイクルがだめ」という判決ではないということで。